「とりあえずビールで!」。かつての僕は、週に2、3回、金曜の夜にもなれば必ずと言っていいほど、この言葉を口にしていました。同僚や友人との飲み会は、日々の仕事のストレスを発散し、人間関係を円滑にするための「必要経費」だと信じて疑いませんでした。しかし、ある日ふと気づいたのです。この「必要経費」が、僕の未来の選択肢を少しずつ、しかし確実に奪っているという事実に。
これは、僕が「余計な飲み会」という名の聖域にメスを入れ、自分の人生を取り戻すまでの、ささやかですが、とても大切な物語です。
1. 飲み会という名の「沼」にハマっていた日々
社会人になりたての頃、飲み会は新しい世界へのパスポートのように感じられました。上司や先輩から仕事の裏話を聞いたり、普段は話せないような部署の人と仲良くなったり。お酒の力を借りて生まれる一体感は、確かに心地よいものでした。
しかし、年次が上がるにつれて、その感覚は少しずつ変わっていきました。いつしか飲み会は、新しい発見のある場から、同じような愚痴や噂話が繰り返されるだけの「惰性の時間」へと姿を変えていたのです。
「またこの話か…」
心の中でため息をつきながらも、僕は愛想笑いを浮かべて相槌を打つ。断れば「付き合いが悪い」と思われるかもしれない。その小さな恐怖が、僕を飲み会の席に縛り付けていました。
そんな日々の終わりはいつも同じ。深夜、千鳥足で帰宅し、翌朝は二日酔いの頭痛と共に目覚める。そして給料日前になると、決まって銀行口座の残高を見て愕然とするのです。「あれ、今月こんなに使ったっけ…」。飲み会1回で飛んでいく5,000円。週に2回行けば月に40,000円、年間で考えれば約50万円にもなります。
この金額は、僕の心に重くのしかかりました。海外旅行にも行ける。欲しかったカメラも買える。何より、将来のために自己投資や貯蓄に回せるはずのお金です。僕はいったい、何のために働いているのだろう? 貴重な時間とお金を、ただ泡のように消えるビールの泡と交換しているだけではないのか?
その虚しさがピークに達したある夜、僕はついに決意しました。「もう、やめよう」と。
2. 「断る勇気」と、意外な周囲の反応
決意はしたものの、実行は簡単ではありませんでした。最初の関門は、「どうやって断るか」です。角が立たず、人間関係を壊さないスマートな断り方が必要でした。
僕が試したのは、いくつかのシンプルな方法です。
* 前向きな理由を伝える作戦
「付き合いが悪い」と思われないよう、「最近、資格の勉強を始めて」「朝活で運動する習慣をつけたので」といった、前向きな理由を伝えました。 意外にも、周囲の反応は「すごいね!」「頑張ってるな」と好意的なものが多かったのです。
* 正直に「金欠」を告白
親しい同僚には「今月、ちょっと厳しくて…」と正直に打ち明けました。すると「わかるわかる、俺もだよ」と共感してくれたり、「じゃあ今度はランチ行こうぜ」と代替案を出してくれたり。 僕が思っていたよりも、みんな他人の懐事情に寛容でした。
* 「一次会だけ参加」の術
どうしても断り切れない重要な飲み会は、「すみません、明日朝が早いので一次会だけで失礼します!」と宣言して参加。 これなら顔を出す義理は果たせますし、二次会、三次会と続く出費と時間の浪費を抑えられます。
もちろん、最初は少し気まずい思いもしました。しかし、数回断るうちに、周りも「あいつは最近、あまり飲みに来ないキャラなんだな」と自然に認識してくれるようになりました。僕が心配していたほど、誰も僕が飲み会に来ないことを気にしていなかったのです。むしろ、自分の意思で時間をコントロールできるようになった解放感は、何物にも代えがたいものでした。